どうも、殿はご乱心遊ばされたようだな。殿様は
勝手気ままに、何をしてもお咎めなしと思っていらっ
しゃるのであろうが、困るのは家臣や領民たちだと
いうことを御存知ないらしい。それにしても、ご乱
心なさる前に、重臣がたは何故黙っていたのか。こ
のままでは他藩の顰蹙を買うのは目に見えておるで
あろうが、なぜ蝸牛みたいに口を噤んで居るのか。
家臣が過ちを犯したら、殿様が真っ先にそれを咎
めねばならんのに、一体何をして居るのか。家臣に
頭が上がらぬようでは、殿様としての器量がないと
しか言いようがないであろう。年端もいかぬ女子に
ふしだらなことをしたのであれば、蟄居閉門どころ
では済まぬはず。何故その道理が判らぬのか。それ
を、あえて家臣を庇っているところが拙者にはどう
しても腑に落ちぬ。
目安箱など、在って無きが如しの振る舞いでは、
領民からも顰蹙を買って居るだろう。それとも領民
は、マインドコントロールとやらを以前から受け続
けて居ったのであろうか。それにしても幕府は何故
動かぬ。あまりにも理不尽な振る舞いに、見て見ぬ
振りをしているのは何故なのか。幕府もあの殿様に
何か弱みを握られて居るのか。それとも、あの過ち
を犯した重臣に弱みを握られて居るのか。
しなければならない一番大事なことが、あの殿様
はまったく判って居らんのだろうか。そんな殿様の
首に鈴をつけに行く勇気ある家臣はおらんのか。一
人二人ではなく十人も居れば、力が湧いて来るであ
ろうに、何が恐ろしくて黙っておるのか。藩のため
ならば、女子の五人や六人はどうなっても構わんと
思って居るのか。いい加減で、他藩の藩士も目を覚
まさんと、日本中から顰蹙を買うことになる。